« 続いて演博 | トップページ | ユ・ヒョンモク監督DVD-BOX »

2009.12.23

文楽フィルム「日本の人形劇」

 早稲田大学演劇博物館グローバルCEOプログラム主催 文楽フィルム「日本の人形劇」の研究報告会 として、フランスのアルベール・カーン博物館に所蔵されている人形浄瑠璃文楽の映画フィルムに関する研究報告と、映画フィルムからリマスターしたDVD映像の上映が行われました。大正10年(1921)の文楽座の映像です。
 会場の小ホール約200席はあっという間に満員となったようで、あふれた来場者は別会場へ誘導、小ホールの舞台とスクリーンをそちらで生中継していたそうです。
 なお、この文楽フィルム、近く早稲田大学演劇博物館で閲覧できるようにする予定とのことです。


12月22日(火)13時~16時15分(予定、実際は16時30分終了)
早稲田大学・小野記念講堂
<プログラム>
・挨拶
 竹本幹夫(GCOE拠点リーダー/演劇博物館館長・早稲田大学教授)
・「文楽フィルムとアルベール・カーン博物館」
 武田 潔(GCOE事業推進担当者/早稲田大学教授)
・「文楽フィルムの映画史的意義」
 小松 弘(GCOE事業推進担当者/早稲田大学教授)
・上映と解説
 桜井 弘(GCOE客員講師)
・「文楽フィルムから見えるもの」
 内山美樹子(GCOE事業推進担当者/早稲田大学教授)
 菊池 明(財団法人逍遙協会理事)
 桜井 弘

 それぞれの報告は厳密な考証に基づくものでした。ここでは全体をざっくりまとめておきます。

 アルベール・カーンは19世紀末から20世紀初頭、一代で財を成した銀行家。世界各地にカメラマンを派遣して記録写真・映像を収集していた。二度の来日経験があり、日本への関心が深かった人物。BBC制作のドキュメンタリーがある(NHK-BSで放送、第1回~9回第10回)。

 この文楽フィルムがアルベール・カーンの元に渡った経緯は未詳。
 フィルムの内容は、大正10年7月に松竹キネマが製作した短編映画「文楽座人形浄瑠璃」に、後年数カットを加えて編集したもの。タイトルは「MARIONNETTES JAPONAISES」、3巻、約42分。無声。

 短編映画「文楽座人形浄瑠璃」の部分には、二代豊竹古靱太夫(後の豊竹山城少掾)、三代鶴沢清六、初代吉田栄三、三代吉田文五郎らが登場している。楽屋風景、人形の拵え、人形の舞台が撮影されている。舞台は、抜き差しがあるが、『妹背山婦女庭訓』「道行恋苧環」(お三輪=文五郎、求女=三代目吉田玉蔵、橘姫=栄三)、『本朝廿四孝』「十種香の段」(八重垣姫=栄三、勝頼=吉田玉次郎、濡衣=桐竹政亀)、同「奥庭狐火の段」(八重垣姫=栄三)。

 吉田栄三が撮影について語った内容(鴻池幸武編『吉田栄三自伝』大正10年の項)とほとんど矛盾なく、この時の映像と判断できる。

 後年つけ加えられたカットは、道頓堀・弁天座が映っており、昭和2年3月か。
 大正10年に撮影したフィルムを中心に、昭和2~3年頃に編集したものと推定できる。これは、元のフィルムが関東大震災を生き延びたということを意味している。

 以下、補足と感想です。

 昔の実業家ってすごい。一代で蓄財して、その財産を美術品の収集や文化財の保護に投入しちゃう人がぞろぞろいるんですよねぇ。お陰で守られた貴重な品々がどれだけあることか。

 元のフィルムは1秒24コマ。リマスターの際に1秒16コマに修正。最も違和感なく人形の振りを見られるスピードだったそうです。90年近く前の演技ですが、人形の型や振りはほとんど今と変わらず。首と拵えは印象が違いました。人形の遣い方は昔の方がきっぱりしているように見えましたが、これは映画のコマのせいかもしれません。
 無声映画なので、太夫と三味線の音がないのが残念。

 古靱、栄三。厳めしい顔つき、いつも怒ってるような表情の印象が強い人たちですが、映像の中で機嫌良く笑っていて、びっくりでした。まぁ、それ以前に、古靱、栄三が動いてるというだけで感動ものでしたが。

 全体を通して見た上で、最後に「実験的試み」として、映像に音声をつけて見せてくれました。「道行恋苧環」の手踊りに二代豊竹つばめ太夫、六代竹沢団六等の音(大正13年8月、ニットー)、「十種香」のくどきに竹本越登太夫、四代鶴沢浅造(大正10年10月、ニットー)の音をつけたもの。音声のスピードをやや調整したようですが、映像の人形の振りと音とがばっちり合いました。当然と言えば当然でもあり、嘘みたいと言えば嘘みたいでもあり。芸の伝承ってすごいです。

|

« 続いて演博 | トップページ | ユ・ヒョンモク監督DVD-BOX »

伝統芸能」カテゴリの記事

コメント

ひでかずさん

 コメントありがとうございます。
 ひでかずさんも当日会場にいらっしゃったのでしょうか? 非常に興味深いフィルムでしたよね。

 ご指摘のコマ数の件ですが。

> 今回の上映は,元の16コマをそのままに16コマで再生した,
> ということではないかと,おもうのですが.

 あぁ、なるほど、そうだったんだ~と腑に落ちました。結果的にはそういうことだったのだろうと思います。

 ただ、当日のメモも見直しましたが、あの場で桜井弘氏は、24コマのフィルムを16コマで再生してデジタル化した、というふうに説明されてました。16コマ再生でもまだ速い印象で、15コマも試したがそれは遅すぎて、15.5コマで再生できればもっとよかったかもしれない、というお話もありましたので、「元のフィルムは16コマ撮影」という前提はなかったと受け止めてます。
 もっとも、素人のお客さんに分かりやすい表現をなさったとか、手回しの撮影で厳密に「1秒16コマ」と言い切れない可能性を考慮したとか、何か配慮があってのことだったかもしれません。

 また、ブログ記事では省略してますが、演博が入手したフィルムはアルベール・カーン博物館が所蔵するフィルムのコピー、コピー元であるアルベール・カーン博物館に現存するフィルムはオリジナルのコピー、当時のオリジナルのフィルムは現存していないということでした。
 ひでかずさんのコメント拝見して、コピーを重ねる過程で1秒16コマ撮影のフィルムという情報が脱落したのかも……とも想像してます。実際そういうことがありうるでしょうか? 16コマ撮影と24コマ撮影のフィルムって、外形的に区別できるものなのでしょうか?

 映画撮影に関する知識が乏しくて、的外れなことをだらだら書いていたらすみません。
 最初に書いたように、

> 元の16コマをそのままに16コマで再生した

というご指摘は正鵠を射たものと思います。

 ご教示ありがとうございました。お陰さまでちょっと賢くなれて嬉しいです。(o^-^o)

投稿: なな(管理人加藤) | 2009.12.29 11:03

「文楽フィルム「日本の人形劇」(MARIONNETTES JAPONAISES)」を興味深く見たので,この催しがどんなふうに評されているのだろうかと,インターネットで検索して,こちらのサイトにたどりつきました.
当日の内容をくわしく記されているのに,感心しました.ところで,ごくささいなことですけど,元のフィルムが1秒24コマだったのを16コマに修正した,というのはマチガイではないでしょうか.犬丸治氏もそのように書かれていますけど,当時の撮影機は毎秒16コマで,映写機も16コマだったはずです.それを現代の映写機(毎秒24コマ)で再生すると,カシャカシャした早送りみたいになってしまうのは,よく見られるとおりです.今回の上映は,元の16コマをそのままに16コマで再生した,ということではないかと,おもうのですが.

投稿: ひでかず | 2009.12.28 22:27

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/92545/47094490

この記事へのトラックバック一覧です: 文楽フィルム「日本の人形劇」:

« 続いて演博 | トップページ | ユ・ヒョンモク監督DVD-BOX »